みせかけのマフラー
- ゆか
- Feb 26, 2024
- 4 min read
Updated: Mar 1, 2024
車を買うことになった。仕事で使うからだ。
免許を手に入れてから3,4年くらい経ったかな。野良での運転はその間2度のみ。
「免許証を持っている人が誰でも車を運転できるわけではない」という実態と「免許証さえ持っていれば誰でも車を運転してもよい」という制度の乖離は恐ろしい。道歩くとき気を付けよ。
お姉ちゃんに手伝ってもらって練習をし、最近は段々と慣れてきた。今では運転しながら星野源を口ずさめる。
長距離・雨の日・夜、さらに難しい状況での運転も習得していかなければならない。頑張るぞ。集中力を持続させるトレーニングもしようかな。
さて、「先に車を買ってから1人で練習するのがいいのでは」というママの提案により、予定より早く車屋さんに足を運んだ。
車種は決まっているから、ゆかが決めるのは色だけだ。
全部で7色。事前に調べていた時点で、「赤・青・紫は絶対にないな、白はおしゃれさに欠けるし、黒はママとお姉ちゃんと被る、残りのアプリコットグレーとメタリックグレーを実際に見てから決めよう」と考えていた。
当日、実際に見てみるとどちらも捨てがたい。分かりやすく形容するならばアプリコットグレーはかわいい系、メタリックグレーはかっこいい系だ。
かわいい私か、かっこいい私か、
ふたつにひとつ、、、
そんなの選べるわけないじゃない!
うんうん言いながら悩んだ挙句、ゆかはかっこいい私を選択した。
仕事で使うのだから、かっこいいが正解だろう。
その後、スタンダードモデルかアップグレードモデルか、みたいな、タイヤの大きさや若干の機能の違いを説明され、より安全性の高いアップグレードモデルを選択した。
在庫確認のため担当の方がしばらく席を外し、戻ってくると同時にこう言い放った。
「メタリックグレーですと、モデルがスポーツカー仕様のみに限られてしまうのを確認し忘れていました!」
何かというと、メタリックグレーを選択すると自動的にスポーツカーモデルとなり、スタンダードモデルやアップグレードモデルの選択肢がないのだ。
スポーツカーモデルとは、より大きく派手なタイヤ、シートも両脇がキュッとホールドする感じになっていて、フェイスもゴツみが増す。
そしてなにより、マフラーが付くらしい。しかしよく聞くと、そのマフラーは実際には機能せず、"そういうデザイン"としてそこにあるのだと言う。
つまり、『みせかけのマフラー』ということだ。
絶対に嫌だ!
実際に使えるマフラーならかっこいいかもしれないが、みせかけのマフラーほどダサいものはない!
というかそんなもの作るなよ!
なに、みせかけだけのマフラーって!
マフラーにその機能性以上の価値を見出すのは勝手だが、それは実際に機能してこそ認められる価値だろ!
変な風に切り取るな!
間違ってるよ!
と、急な拒否反応と全身を覆い尽くす憎悪。
あげくの果てに、「一気にお値段があがります。」と担当の方。
おいおい、バカげてるぜ、
『みせかけのマフラー付き車』の方が、『全部が本物車』よりも価値が高いっていうのかい、
「余分に支払うのでみせかけのマフラーだけは付けないで下さい。」と言いたい気持ちに駆られたがまあいい、もう疲れた、
「それではやっぱりアプリコットグレーにします。」
心の中の激しい怒りと絶望とは裏腹に、その後はスムーズな手続きが行われ、お店を後にした。
紆余曲折あり、かわいい私の方になってしまったが、実はとても納得している。
ゆかが何かを選択する時、最後の最後では不可抗力に委ねることが鉄則なのだ。
ただ、『みせかけのマフラー』がゆかにとって不可抗力だったかと問われれば、結局ゆかの中で「みせかけだけは許せない」という価値観があったのだから自分の意思だったとも言えるし、メタリックグレーはスポーツカーモデルだけで販売すると決めのは企業側なので不可抗力だったともいえる。
そんな話でした。
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