部活
- ゆか
- Mar 7
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ゆかの青春は部活の色合いが濃ゆい。
中学では私立の女子校でダンス部に入り、高校ではアメリカの学校でチアリーディング部に入って活動していた。
5歳の頃にバレエを習い始めてから色んなジャンルの踊りを覚えた。
舞台の上で踊ることが大好きで、自分が一番輝いている自信があった。
とにかく上手くなりたい、センターに立ちたい、その一心で無我夢中に練習していたと思うんだけど、一心不乱すぎて当時の細かい感情があまり思い出せない。
光が強すぎて光源が見えなくなる現象みたいに、14~18歳くらいのゆかは眩しすぎる。
バレエ教室の主宰の先生は踊りだけではなく「舞台人」としての礼儀や心構えを教えてくれる先生だった。まじで怖かったし怒ると普通にどついてくる先生だったけど、みんなに尊敬されていた。
発表会の時に関わる裏方のスタッフさんやお手伝いのお母さん達に対する礼儀には特に厳しくて、裏方の仕事でも自分で出来ることはすべて自分でやるよう指導された。
舞台上で照明を浴びて、装飾に囲まれて、衣装に身を包んで、音楽に乗って踊ることができる。
たった3分のヴァリエーションを披露できるのも、たくさんの人の表には見せない働きがあってこそだと死ぬほど叩き込まれた。
そのおかげでゆかはずっと裏方に憧れていて、なんなら舞台に立つ人よりかっこいいと思っていた。
だから大学に入ったゆかは、舞台照明サークルの部室のドアを叩いた。
入った。
出た。
部室内に充満するカップ焼きそば的なものの匂いに我慢できなかったのだ。
行き場を失ったゆかは、アメフト部のマネージャーに興味があるという友人にくっついて新歓に参加し、気づいた時には入部していた。
舞台じゃないけど裏方だし、やめたくなったらやめようという軽い気持ちだった。
そしてその4年後、結局毎日アメフト部のことで頭がいっぱいの日々を終えて、引退した。
ダンスと向き合ったこれまでの部活動とは違って、アメフト部ではとことん人と向き合った。
「自分を出す」ことに一生懸命だったゆかは、「相手を引き出す」ことに一生懸命になった。
人と向き合うのはすごく難しくて、自分と相手の間にある何枚ものベールを丁寧に捲って、その内側に隠れていたフィルターを器用に剥がして、傷つけないように、そっぽ向かれないように、寄り添いたくて、分かり合いたくて、分かり合えさえすれば、手を取り合えるはずだと思った。
最終的にどうなったんだっけな。
寄り添えもしなければ、分かり合えもしなくて、手も取り合えないまま、若干傷つけたんじゃなかったけな。んでそっぽ向かれちゃったんじゃなかったけな。
( ´∀` ) パァ
それでもゆかは真剣だった。
中高生の時のような輝きはない。
ギラギラの太陽より、ふかふかの土壌でいたかった。
今思えばふかふかになりたすぎてギラついてしまっていたのかもしれない。
結局なにか特別な結果を残せたわけじゃない。
途中だったこともたくさんあって、でももう時間がない。
後悔も、なにかを諦めた感覚もなかった。
できることを全部やって、時間がきて、去っていく。
ゆかの学生最後の青春は、素敵な額縁みたいで、中に収める程立派な絵はないけれど、それだけで美しかった。
それからまた月日は過ぎて3年後。当時1年生だった後輩が4年生になり、引退する時が来た。
前年、アメフト部にとって長年の目標だった「2部昇格」を果たした彼らは、その年さらに順位をあげ有終の美を飾り引退した。
おこがましいけど誇らしかった。
世界一だと思った。
全人類に自慢したかった。
そして、ゆかは彼らの青春を自分の青春に収めた。
ぴったりだと思うんだけどどうかな。
値段もつけられないと思うんだけどどうかな。
この先、こんな素敵な芸術に出逢えることなんてあるんだろうか。
ありがたすぎて言葉にならない。
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